文章を書く仕事は、言葉をきれいに並べる仕事だと思われることがあります。
もちろん、読みやすくすることは大切です。まちがいのない情報を伝えることも大切です。
文章の流れを整えて、読者が迷わず読めるようにすることも必要です。
ただ、最近はそれだけではないのかもしれないと思うようになりました。
言葉を整えることは、読んでいる誰かの不安を少し軽くすることでもあるのではないか。
そんなふうに感じています。
わかりにくい言葉は、不安を大きくする
文章を読んでいて、かえって不安になることがあります。
「私はこうして成功した」「今ごろ、そんなことをしていてはダメですよ」など。
言葉はたくさん並んでいる。情報も書かれている。
でも、結局何をすればいいのかわからない。
そんな文章に出会うと、読者は置いていかれたような気持ちになるのではないでしょうか。
でも、そういう言葉をそのまま自分に当てはめて、不安になる必要はないと思います。
人はそれぞれ、今置かれている状況がまったく違うからです。
難しい言葉が多い文章。説明の順番がわかりにくい文章。結論が見えにくい文章。
書いている側はきちんと説明しているつもりでも、読む側にとっては、かえって迷いが増えることがあります。
わかりにくい文章は、読者を迷子にしてしまうことがある。
そう感じることがあります。
だからこそ、文章を書くときには、ただ情報を並べるだけではなく、読んだ人が安心して読み進められるかを考えたいと思っています。
読んだ人も、自分の状況に合う部分だけを受け取ればいいのだと思います。
言葉が整うと、次に何をすればいいかが見えてくる
不安は、何もわからないときだけに生まれるものではないと思います。
ある程度はわかっている。でも、どこから考えればいいのかわからない。
何を比べればいいのかわからない。自分の場合はどう判断すればいいのかわからない。
そんなときにも、不安は大きくなります。
だから、文章を書くときには、読者が一つずつ考えられるように順番を整えることが大切なのだと思います。
まず何を知ればいいのか。どこで迷いやすいのか。何を確認すればいいのか。
最後にどう判断すればいいのか。
その道筋が少し見えるだけで、読者の不安は軽くなることがあります。
文章は、読者の代わりに答えを決めるものではありません。
でも、読者が自分で考えるための足場を作ることはできるのだと思います。
塾の現場でも、不安を軽くするのは小さな言葉だった
私は長く、学習塾の現場で子どもたちを見てきました。
子どもたちは、「わからない」と言葉にする前から、不安そうな顔をしていることがあります。
問題を前にして手が止まる。鉛筆を持ったまま、どこから始めればいいのかわからない。
そんな場面を何度も見てきました。
そのときに必要なのは、いきなり正解を教えることだけではありません。
「ここまではできているよ」「まず、この部分から見てみよう」
「この考え方で大丈夫」「ここで止まったんだね」
そんな小さな言葉で、子どもの表情が少し変わることがあります。
できないことが消えるわけではありません。急に問題が解けるようになるわけでもありません。
それでも、自分がどこにいるのかがわかると、子どもは少し落ち着きます。
次に何をすればいいのかが見えると、もう一度考え始めることができます。
これは、文章を書くことにも似ているのかもしれません。
読者も、何かに迷っているから文章を読みます。
知りたいことがあるから検索します。不安を少しでも整理したいから、言葉を探します。
そのときに、書き手ができることは、読者を急に正解へ連れていくことではないと思います。
「大丈夫です。ここから一緒に整理していきましょう」
そんな気持ちが伝わる文章を書くことなのだと思います。
読み終えたあと、少し前を向ける文章を書きたい
文章ですべての問題を解決できるとは思っていません。
読んだだけで悩みが消えるわけではありません。不安が完全になくなるわけでもありません。
それでも、文章にはできることがあると思っています。
難しいことを少しやさしくすること。散らかった情報を順番に並べること。
読者が迷いやすいところに、そっと言葉を置くこと。
「自分だけではなかった」と思えるような表現を探すこと。
そうやって言葉を整えることで、誰かの不安がほんの少し軽くなることがあるのではないかと思います。
うまい文章を書きたい気持ちはあります。わかりやすい文章を書きたい気持ちもあります。
でも、それ以上に、読み終えたあとに少しだけ前を向ける文章を書きたい。
「少しわかった」「次に何をすればいいか見えた」「もう一度考えてみようと思えた」
そんなふうに感じてもらえる文章を書けたら、それはとても意味のある仕事だと思います。言葉を整える仕事は、誰かの不安を少し軽くする仕事でもある。
私はこれからも、そのことを忘れずに書いていきたいと思っています。
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